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広島高等裁判所 平成4年(ネ)385号 判決 1993年5月28日

平成四年(ネ)第三八五号事件控訴人・同年(ネ)第三九〇号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)

高田稔

右訴訟代理人弁護士

上田勝義

平成四年(ネ)第三八五号事件被控訴人・同年(ネ)第三九〇号事件控訴人(以下「一審原告」という。)

新谷龍央

右訴訟代理人弁護士

山下哲夫

主文

一  一審被告の控訴を棄却する。

二  一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告は、一審原告に対し、原判決添付物件目録五記載の建物及び原判決添付物件目録二記載の土地上の植木を収去して原判決添付物件目録二記載の土地を明け渡せ。

2  一審被告は、一審原告に対し、平成四年七月一日から原判決添付物件目録二記載の土地の明渡しずみまで、一か月二一万六〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一一審被告

(平成四年(ネ)第三八五号事件について)

1  原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。

2  一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

(平成四年(ネ)第三九〇号事件について)

1  一審原告の控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審原告の負担とする。

二一審原告

(平成四年(ネ)第三八五号事件について)

1  一審被告の控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審被告の負担とする。

(平成四年(ネ)第三九〇号事件について)

1  原判決を次のとおり変更する。

2  一審被告は、一審原告に対し、原判決添付物件目録五記載の建物及び原判決添付物件目録二記載の土地上の植木を収去して原判決添付物件目録二記載の土地を明け渡せ。

3  一審被告は、一審原告に対し、平成四年七月一日から原判決添付物件目録二記載の土地の明渡しずみまで、一か月二一万六〇〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張の要旨は、当審において次のとおり敷術したほか、原判決事案の概要欄記載のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

一一審被告

1  本件賃貸借契約は、少なくとも昭和五四年九月一日又は昭和六〇年九月一日の更新の際に、建物所有を目的とする賃貸借契約に明示又は黙示的に変更された。

本件土地の使用は、昭和四六年二月ころから双方に異議なく、二〇年以上も継続している。右長期継続の事実からして、本件賃貸借契約が単なる一時使用でないことは明らかであり、本件建物の建築後において右建物の存在を前提に建物所有を目的とする賃貸借契約を締結することは何ら不自然ではない。賃貸借契約書における「一時使用」の文言は名目的、便宜的なものであり、「賃貸期間」は賃料据置期間である。

2  本件建物には、一審被告及びその妻子が現在でも常時全員でないにしても居住して生活している。長男及び二男は、本件建物から通園、通学していた。本件建物内には、仏壇、食器、家具等が存在しており、本件建物が事務所ないし従業員の休憩所でないことは明らかである。

3  本件紛争の発端は、一審被告が当初から賃借し駐車場として使用していた第二土地を、一審原告が他へ駐車場として賃貸するため賃貸範囲ではないとして明渡しを求めたことにある。一審原告には、本件土地を自己使用する必要性はなく、その他本件土地の明渡しを求める必要性はまったくない。他方、本件賃貸借契約が長期間継続してきたこと、本件土地・建物が一審被告の園芸業及び家族との生活の本拠として必要不可欠なものであること等を考慮すれば、一審原告の本訴請求は権利の濫用というべきである。

二一審原告

本件においては、本件土地上にあるすべての植木の収去を求めているのであり、収去物件の特定としてはそれで十分である。本件のように販売目的で植木を陳列している場合、植木の種類、数量は日々変わるものであり、厳格な特定は不可能である。

第三当裁判所の判断

一一審原告の本件建物収去・本件土地明渡請求及び賃料相当損害金請求の理由あることは、次のとおり改めるほか原判決七頁七行目から同二三頁一〇行目までに記載のとおりである。

1  原判決八頁一〇行目の「登記をした」の次に「。一審被告の登記簿上の住所は、広島市佐伯区五日市中央五丁目二三番二二号となっている。」を加える。

2  原判決九頁五行目の「次のとおりであった。」の次に「右契約書において、賃借人である一審被告の住所地は、昭和五二年八月二五日付け公正証書を除いて、連帯保証人となった母親高田チサトの住所地と同じ五日市中央五丁目二三番二二号である。昭和六〇年九月一五日付け契約書及び平成元年四月六日付け契約書において連帯保証人となった一審被告の妻高田実子の住所地も、一審被告と同じ五日市中央五丁目二三番二二号になっている。」を加える。

3  原判決一三頁五行目の「五日」を「一五日」と改める。

4  原判決一五頁八行目の次に行を改めて、「(4) 本件土地が賃貸された当時、本件土地の周辺はほとんど農地であったが、現在は回りに店舗や住宅が建つようになった。」を加える。

5  原判決一七頁六、七行目の「写真のないこと、」の次に「一審被告の住民票上の住所地は肩書地の広島市佐伯区五日市中央五丁目二三番二二号となっているが、右住所地には一審被告の母親高田チサト名義の土地上に昭和二八年ころ建築された同人名義の木造セメント瓦葺二階建居宅一階85.81平方メートル、二階14.59平方メートルが建っていること(<書証番号略>)、」を加える。

6  原判決一七頁一〇行目の末尾に「<書証番号略>の写真には本件建物内にある仏壇、寝具、食器等が写っているが、右写真は平成五年二月に撮影されたものであるし、本件建物の構造は簡易なプレハブ作りであり、本件建物の広さは園芸品等の置き場に利用されている部分を除けば八坪程度しかないことからして本件建物は客観的にみて住居用建物としてはふさわしくないし、本件建物に近い一審被告の住所地には住居用建物があることに照らせば、一審被告及びその家族が本件建物に居住して生活していたとは到底認められない。」を加える。

7  原判決一八頁二行目から同八行目までの「(二)」の項を次のとおり改める。

「右(一)で認定した事実、特に本件賃貸借契約の契約書において使用目的が植木植込場、仮店舗用地とされていること、現実に本件賃借地の大部分か植木の植込み・陳列販売用地として利用されていること、本件建物はその構造が簡易なプレハブ建物であり、床面積も本件賃借地の一割弱にしかすぎないし、本件建物のうち約半分は園芸品の保管・陳列のため使用され、残りも一審被告の家族の居住として使用されているとは認められないこと等に照らせば、一審被告は、本件土地を園芸用植木の植込場及び陳列販売場に利用することを目的として賃借したものであり、本件建物は園芸用植木の販売営業上必要な仮店舗兼事務所として利用するものであり、本件建物の所有は、園芸用植木の植込場及び陳列販売場として本件賃借地を利用するための従たる目的にすぎないものと認めるのが相当であるから、本件賃貸借契約は、借地法一条にいう建物の所有を目的とするものとはいえず、借地法は適用されないと解すべきである。」

8  原判決二〇頁一〇行目の「しかし」から同二一頁四行目の「余地がないから」までを次のとおり改める。

「しかし、本件賃貸借契約において本件建物の所有が従たる目的にすぎないことはすでに説示したとおりであって、本件建物が長期間にわたって存在し、賃貸人がこれを知りながら異議を述べなかったからといって、本件土地の使用状況に変更はないのであるから、本件賃貸借契約が建物所有の目的に黙示的に変更されたと認める余地はなく」

9  原判決二一頁一一行目の「しかし、」の次に「本件賃貸借契約の契約書には賃貸面積が一八〇坪(595.02平方メートル)ないし594.74平方メートルとそれぞれ記載されていること(第一土地の面積594.74平方メートルに相当する。)に照らし、第二土地(面積四五平方メートル)が賃貸の対象となっていたとは認め難いし、」を加える。

10  原判決二三頁一行目の「なお」から同五行目の「直ちに採用できない。」までを削り、同六行目の「右各事情を」を「右認定の事情、更には仮に本件紛争の発端が一審被告指摘のような事情であったことや一審原告において本件賃貸地の具体的利用計画が明らかにされていないことを」に改める。

二植木の収去について

収去明渡しの債務名義において収去されるべき物件の特定の程度については、具体的な事件のもとにおいて、その債務名義に基づいて執行にあたる執行機関が収去対象たる物件を他の物件と明確に識別できる程度の特定記載があれば足りると解すべきである。

本件において、一審原告は、本件土地上にある植木全部の収去を求めているのであるから、収去を求める植木を本件土地上の全植木とすることで収去されるべき物件の特定に欠けるところはないと認められる。

したがって、本件土地上の植木を収去して同土地の明渡しを求める一審原告の請求は理由がある。

第四以上の次第で、一審原告の本訴請求はすべて正当として認容すべきであり、これと異なる原判決を一審原告の控訴に基づき変更し、一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官小林正明 裁判官渡邉了造)

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